16−3
・・・はい…。 青年はまた一つ呟いた。 「はい…。貴方が…イウギさんが気がついてよかったです。」 少しかすれたような声で、青年は目を拭った。 「ごめん…。俺、どれぐらい眠って、」 「いいんですよ。無理に起きあがられなくても、まだ安静にしていてください。」 寝台から身を起こそうとするイウギを、セルイは手の平で押しとどめた。 「痛むところはありませんか、体に違和感のあるところは…?」 「いや・・・そう言えば右側がごわごわするかな。」
無意識に掻いた顔の右側から、分厚いガーゼが落ちそうになる。 「あ、むやみにはがしてはいけませんよ。皮膚がようやく乾いてきた所なんですから、」 「えっ、う、うん・・」 青年の言葉にドキリとして子供は右手を引っ込めた。 「・・・俺もうダメかと思った。“ああ、このまま化け物に食べられて死んじゃうんだな”って、一瞬だけど思ったよ。」 少年はキョロキョロと自分の置かれた場所を確認する。何の変哲もない部屋で、多少屋根裏の趣さえある。少し時代の過ぎた白い壁に、張り立てとは言い難い柔らかい木の床。右側に接した大きめの窓からは、下の狭く小さな路地の石畳がチラと見えた。(少年の背丈では、覗き込みでもしなければ、底までは見えない。) 「でも、まだ生きてるんだな。」 昨日の夕食の感想でも言うかのように、少年は事も無げに言ってみせた。驚きと、喜びと、どちらの方が勝っているのかわからない。そんな気分で、青年は子供の笑顔を気がつくまで眺めた。
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