15−12
「おい、どうした?しっかりしろ!!」 呆然と立ちつくす青年を、セツは叱咤した。 「あいつの居所が分かったんだ!早く助けに行かないと」 虚ろな瞳を返したセルイは、ややあって正気に戻った。 「…え、ええ、そうですね。デオさん。娘さんを抱えてこの上へ、あがれますか?」 「ああ、なんとかやってみよう。」 「地上へ出たら、約束通り、あの岩へ。下に潜ったら身を守って、じっとしていてください。あそこには結界が張ってあります。この森に、何があってもあそこなら無事でいられます」 この言葉を聞いて、男はきょとんとした。だが、青年の真面目な視線を受けて、今度はしっかりと頷いた。 「セツさんも・・・」 「俺は、一緒に行くよ」 「でも、」 「見届けたいんだ。この事件の顛末を。この目でしかと。俺は、そうしないと、俺の人生に納得できない」 若者が、青年の瞳を強く見る。ややあって、セルイは彼の意志に同意した。 「…そうですね。貴方には知る権利がある。多くの犠牲になった子供達の代表として。生き残った者の責務として、」 「ああ。」 固い決意を確かめて、青年二人は穴の奥へとかけ出していた。
初めのうちは、イウギも暗闇の中で必死に抵抗していた。 自分を捕らえようとする蔦を、めいいっぱいの力で踏んづけたり、手近な石で殴りつけたり。生き残るための努力を、彼は力尽きるまで怠らなかった。 姉との約束を。あの人との約束を。生きると誓った。不幸にならないと。自分だけのために輝く星を、必ず見つけるんだと、…自分に誓った。だから。
獲物があまりに暴れるものだから、相手は捕食の仕方を変えたらしい。 木の根のように太い蔦の先が、見る見る幾筋にも裂けて、大きな投網のような形になったかと思うと、イウギの体に被さってきた。これには彼も驚いて、なんとか網を破ろうともがくが、その度に顔や腕などの皮膚に張りついてくる。 細かく巡らされた網の先の突起物から、消化液が流れる。焼けるような痛みにイウギは悲鳴を上げた。無理に引き剥がそうとすればするほど、肉ごと裂けた。他の蔦も、投網状になって、幾重にも子供の体の上に覆い被さってくる。子供はその中で、必死にもがき苦しんだ。 予想以上の極上の餌に、種は狂喜した。食指を通して伝わってくる養分は、普通の子供のものとは違うようである。潤う泉の水のように、春秋通して乾いたこの体を甦らせてくれる。いや、それ以上に、自分の内部の細胞がどんどんと膨れて体を形成していく。このままいけば、今までにないくらいの最高の発芽を迎えられそうである。
食指の網の下の餌は、もう大分弱ってきたようである。このまま残りの残骸を平らげようと、種は餌をたぐり寄せた。その時、子供の背後の壁が、赤紫色の炎に包まれたかと思うと、一瞬で灰燼と化した。
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