15−10
「っおい!?」 近寄ってみると、それは自分よりも小さな女の子であった。踞るような形で気を失っているが、傷はないようだった。多分、自分と同じような方法でここへつれてこられたんだろう。 「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!早く目を覚まさないとここはやばいんだって」 少女と、蔦に、交互に注意を払いながら、イウギは呼びかけを続けた。蔦は本数を増やし、左右に展開して襲う隙を窺っている。 「くそ!来るんじゃねぇ!」 イウギはがむしゃらに剣を振る。それで蔦は一時引くが、すぐにまた現れる。向こうも光に馴れてきたのだ。 「…ちくしょう!!」 イウギは大股で剣を振るうと、隙を見て少女を抱え、出口と思われる穴まで運んでいった。彼女を地面に下ろすと、その衝撃で少女は目を覚ました。 「あ…え、誰…?ここ?なに…」 「起きたか、よく目を覚ませ!早くここから出るんだ!!」 「なに!?あれ・・・!!」 少女は目の前の物を見て、驚愕した。部屋の中央の岩から幾筋もの木の根のような物が伸び、こちらを向いている。 「ここにいたら、あれに掴まって、あの岩に食われちまう!」 彼女を背に庇いながら、少年は剣を振る。 「そこに穴があるだろう。岩をどけて、外へ出るんだ。早く!!」 「う、うん…」 そういって、彼女は岩を押し始めた。しかし、子供の力ではそう奥まではどかせない。 「おにいちゃん、もう、動かないよ」 イウギは穴の大きさを確認するが、自分が通れそうな程の隙間はなかった。だが、この少女なら別だ。 「先に行け!早く!」 少年の言葉通り、少女は隙間をくぐり抜ける。が、すぐに向こう側から悲鳴が響いた。 「お兄ちゃん!こっちにもなんかいる!!」 「何!?」 イウギは再び、穴の隙間の方を向いた。少女の姿は完全に穴の向こう側にあってもう見えない。 「なんかいる!!いっぱい、生き物が見てる!恐いよう」 くそう!少年は手詰まったと思った。今ここで、背を向けて穴の岩に向かえば、自分は完全に足下をすくわれる。しかし、少女をこちら側に戻したところで他に出口はない。やはり、あちら側にでるしか道はないのだ。 迷っているイウギに、さらなる追い打ちがかかった。 「きゃあああ!こっちに来るぅ!!」 少女の絶叫が坑内に響く。 イウギは迷いを捨てて、短剣を穴の隙間に放り込んだ。 「あっ…」 「大丈夫か!?」 「う、うん。なんか、逃げてった…」 「その短剣を拾って、お前は出口へ迎え!後ろを見るなよ!?全力で走るんだ!!」 少女は泣きながら返事をした。そして、小さな足音が、遠く無くなるまで、イウギは耳を澄ませていた。 目の前には暗闇だけが残された。
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