15−8
何かの獣が吠えたてているような声で、イウギは目を覚ました。 頭の中がくらくらする。そして、自分は何故か息苦しい暗闇の中にいる。 一瞬、まだ夢の中にいるのかと思った。だが、背中や肘で感じる濡れた岩肌の感覚は、現実のものだった。 「どうして俺・・・こんな所に。俺は確か、セツの家を出たあと、まっすぐ街道を戻って、それで…」 暗くなりかけた雪道を泣きながら歩いていたら、また耳鳴りが始まって、目の前が真っ暗になったんだ。そうだ、遠くで笛の音がしていた…。 考え事をすると、また頭が痛み出す。イウギはそれを取っ払うように頭を降ると、岩肌づたいに立ち上がった。 なんとか目を暗闇に馴れさせようと光をさがすと、ここはそれほど広くなく、天井も2メートルほどしかないドーム状になっていることがわかった。中央には、何か巨大なものが踞っている。不格好な岩のようでもあったが、表面が何かの粘液で覆われてぬらぬらしている。気味が悪いので、イウギはそれには近づかないようにして、壁づたいに出口を探した。すると、丸い岩で蓋をされたような格好をした窪みを下の方に見つけた。 丸い岩を蹴ると、かすかに動く。やはりここが出入り口のようだ。イウギはほぼ横這いになって、その岩を両手で押した。岩は回転するばっかりで、あまり奥へは行かなかったが、多少の透き間は開いてきた。
もうすこし、別の角度から岩を動かそうと体勢を変えると、急にその脚を何かに掴まれた。驚いて後方を見ると、あの、中央の不気味な岩から太い蔦のようなものがのび、自分の脚を掴んでいる。 「な、なんだよ!?これ!」 蔦は強い力で腿に巻き付き、自分を引き寄せようとする。イウギはあわてて近くの岩の出っ張りにしがみついた。恐怖と、ものすごい力への抵抗で、筋肉がビクビクする。脚の肉は、そのまま蔦に持って行かれそうだ。 「嫌だぁ!」 思わず叫んでみるが、ここでは助けてくれるものとて無い。ついに指の先が力を失い、イウギは荒々しい岩肌の上を引きずられ始めた。 (…助けて!姉さん!・・・・・・セルイッ) ぎゅっ、と胸の守り袋を握ると、腰の辺りでなにか固い音がした。はっとして、後ろに手を伸ばすとそこには短い剣があった。イウギは迷わずそれを引き抜くと、蔦の根本に向けて突き立てた。
奇怪な音を立てて、蔦は千切れて岩の間に見えなくなった。イウギは、脚に巻き付いた残りの部分も取っ払うと、あわてて再び壁際へと寄った。まだ胸がドキドキする。 「なんだよ・・・あれ・・・」 中央の岩は相変わらずじっとしているが、時々腹の辺りが波打った。 「…っ、生きてる…。あれ。」 イウギはまた恐ろしくなった。早くこんな所から出なくてはいけない。 少年は先ほどの出口を探し始めた。・・・と、今度は前よりも穴の中が明るくなっている気がする。見ると、光っているのは自分の手元であった。引き抜いた短刀の刃が、星明かりのような青白い色で輝いている。 ≪これは守りの刀です。きっとあなたの事を守ってくれます≫ 「セルイ・・・」 ふいに、元の持ち主の顔が浮かんできて、イウギはぐっと涙を堪えた。 今は、セルイはいない。自力で何とかしなければ…。その変わり、自分の手の中にはこの剣がある。 蔦は、あいかわらず岩の下で獲物を捕まえる機会を窺っていたが、この剣の光が届く範囲までは出てこないようであった。剣を中央の岩の方に向けながら、用心深く少年は出口を探した。 すると、出口と共にこの穴の中には自分以外の子供の姿があることにも気づいた。
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