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村の人々が驚いて一歩引く。そして、農具を構え直して、再び彼らに迫った。青年は剣の刃を村人に向けることなく横にして、その柄の文様を前に示して見せた。 「…私の身元は、これで証明できませんか」 押し殺したような声である。彼にとってこれは、人に対して使える最後の手段なのだ。 「なんだ、こんなもので脅そうってのか!?そんなもの…」 「いや、待て。」 そういって、一団の中から前へ出たのは長老らしき老人だった。 「わしは、兵団におった頃、これと同じこしらえの剣を見たことがある…いや、正確にはこの剣を携えた人達をな」 老人は、まじまじと青年の容姿をみた。 「わしの隊は、その人らに率いられておったのじゃ。その獅子の文様は…オックス騎士団の一員である証…!」 「オックス騎士団…?あの有名な…。帝国直属の精鋭部隊じゃないか」 思いもかけない名前に、村の人々も動揺を隠しきれない。ざわつきの合間を縫って、セルイは言葉を続ける。 「…私は、この村にかけられた呪いを取り払いにきたのです。こんなにも長いこと、この村の惨状を放って置いて、申し訳ありません。ですから、私たちを往かせてください。あの森へ」
…村の人々は、騎士団の名に驚いてすっかり戦意を無くしてしまったようだった。一緒にいたセツとて、その驚きは同じである。 「あんた・・・そんなにエライとこの軍人だったのか…」 「まあ…。騎士団員といっても私の場合は形式的な配属ですが」 「?」 「とにかく、今は私を信用していただくしか方法はないんです。森に行かせてください!急げば子供の命は助かります!!」 村人達のざわつきはまだ収まっていない。突飛な話になってきて、頭がついていかないようだ。そこへまた、あの長老が一声かけた。 「行かせてやろうではないか。その刀をもてるのは、武勇と有徳、両方を兼ね備えた士のみ。もともと我々ではどうにもできんかったことじゃ。この方に賭けてみるのも悪くは無かろう」 「しかし・・・セツも、そいつも行くのか?事件(コト)の発端はそいつにあるんだぞ!」 「…セツさんは悲しくも最初の被害にあってしまっただけです。それがセツさんでなければ、その他の誰かが犠牲になっていただけです。あなた方は、今、セツさんがここに居られることを幸運に思うべきなのです!」 「・・・・・・」 セルイの強い言葉を聞いて、民衆の誰もが口を閉ざしてしまった。もともと、この事件の本当の原因を言えるものはこの中にはいない。 しずしずと、人々は丘の道を開けてくれた。
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