15−5

「まずいな・・・村の連中だ」
すっかり闇に包まれた屋外に、不穏な空気で農具や松明を掲げた人間たちの姿がある。研ぎ立ての鎌が、雪明かりで青く光っている。
「ここに入る姿を見られたらしい。あんた、もう逃げられないぜ」
「大丈夫です。戸を開けてください」
やや顔色を青くしながらも、若者はゆっくりと戸を開けた。表には殺気だった村の人々がこちらを睨んでいた。
「この紐はお前の仕業か。気味の悪いことをしやがって。何が目的だ!」
そういって、一人の中年の男が、手にしている汚れた布紐を突き出さした。これにはセルイも多少顔をしかめた。
「勝手なことをしてすみません。確かにそれは私の所行です。でも、少しの間、村から邪気を逸らしたかったんです。」
「訳の分からないことをいいやがって…。お前、人さらいの一味じゃないのか!?俺の子供をどこへやった!セツ!お前も仲間だったのか!こんな奴かくまいやがって」
 名前を呼ばれ、セツは子供のように身をすくませる。逆にセルイは戸口より一歩前へ出て、大人達を説得し始めた。
「それは誤解です。セツさんは村の異変についての調査で、私に協力してくれただけです。・・・子供がまた行方不明になったんですか?」
解かれた紐が、男の手の中でひらひら踊っている。それを惜しむように、青年は苦い口調で尋ねた。
「ああ、俺の子だ。今年こそは盗られねえようにと、十分気を配っていたつもりだったのに!夜になって、くらくらと目眩がしたと思ったら、家の中に子供の姿がなかったんだ。…お前達の仕業じゃないのか?この紐は、子供の居る家を示す目印だったんだろう!?」
青年は残念そうに首を振る。男はますます形相を変えて迫った。焦っているんだろう。セルイの周辺を悔しそうに探す。
「…お前、子供を一人連れていただろう。あれだって、どこからか攫ってきたんじゃないのか?」
「ちがいます。実は、私の連れも行方不明になってしまって、これから探しに行くところなんです」
「お前の!?そんな話を信じると思うのか!」
「本当だ。だから、俺達を通してくれ」
「そういって、逃げる気じゃないのか!?」
こうなってくると、らちが明かない。今は一刻を争うときである。
 セルイは、もはやためらいなくあの短刀を抜いていた。



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