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はああ?と、これにはさすがのセツも驚き顔だった。だが青年は、あれよあれよという間に彼を椅子に座らせ、薪に火をつけ湯を沸かし始めた。 「心配いりません。お湯が沸けば、すぐに終わります。」 そういって懐から、何かのコップを取り出す彼を、セツは半ばあきれ顔で諭した。 「あのなぁ、この足は、骨がねじくれているから、これ以上直りようもないんだ。4年かけて、やっとここまで動けるようにしたんだ。それを、すぐに終わりますだなんて…」 「わかっています。ですが今は時間がありません。私を信じて、椅子の上に足を乗っけてください。」 セツは渋々云われたとおりに、もう一つの椅子の上に右足を載せた。更に裾を傷口の上まで上げるように、セルイは言うと、
持っていた杯をどっぷりと煮えたぎった鍋の中につっこんだ。その所行にもセツは驚いたが、杯と共に湯に浸かったはずの青年の手は何ともなかった。たっぷりとついだ湯を自分の胸元にまで持ってくると、青年は十字を切り、小さく何事かを呟いたようだった。それから、若者の顔を見、いきますよ、といった。 「動かさないでください。戴いたお湯は、すべて使い切らないといけないんです。」 セツが何事か言おうとする前に、青年は彼の足に向けて、一滴残らず杯の中身を空けていた。 びくっ、と一瞬身じろぎしたが、若者の緊張はすぐにほどけた。熱いと思っていた湯はそれほどでもなく、心地の良い温度で肌の表面を流れていった。 それからセルイは、外套の中から赤いシミの付いたタオルを取り出すと、彼の足に押しつけた。 「それ・・・・・・血か?」 「気味が悪いでしょうが、我慢してください。じきに、消えます」 果たして青年の言葉通り、タオルの斑なシミは、見る見るうちに吸い取られて消えていた。残ったのは、ただの白い濡れたタオルだ。 「どういう仕掛けだ。」 「言葉で説明するのは容易ではありません。今はその時間もありませんし…。とりあえず、杖無しで立ってみてください。」 納得がゆかないながらも、言われたとおりに椅子から立ってみると、自分の足は果たしてちゃんとまっすぐになっていた。 「うそだろ・・・」 「何か不具合はありませんか?」 「あ、ああ…杖無しだと多少、体が傾ぐ感じだな。でも痛みはない」 「大丈夫、しばらく歩けば、今の足にも馴れます。それでは、行きましょうか」 質問する予断を与えず、青年も席を立つ。机に置いた黄金杯を懐にしまい、小屋を出ようとしたその時だった。 「セツ!!いるな!?あの旅人も一緒にいるんなら、今すぐ出せ!」
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