14−9

「セツ・・・何処に居るんだ…」
全く灰色になった空の下を、イウギはあてどなく彷徨っていた。訪ねたはずの、セツの小さな棲まいは、なれど無人であった。
 すっかり予定を崩したイウギは、このまま帰るのも切なくて、村の中の迷路のような石垣の森を地面を観ながら歩いていた。
 コツ…、コツ…と、またあの鍛冶屋の音が聞こえる。あの音を聞くだけでも、普通なら温かい気分になるのだろうが、残念ながら少年はその温もりを知らない。
 羽のように雪が落ちる。黒光りする石畳はますます滑り心地をよくしていた。一歩間違えば転倒して怪我を免れないような…なんで、こんな土地なのに、こんなに歩くのが不自由な造りをして居るんだろう。漠然とそんなことを思った。
 どのくらいそうしていただろう、ガシャーンという音がして、少年は顔を上げた。
視線の先には狭い路地の終わり目があって、そこには地面にはいつくばるセツの姿がある。
「セツ!」
驚いてそばへ駆け寄ってみると、彼の周りには小枝が散乱していた。
「セツ…!セツ、大丈夫か!?」
「・・・ああ、お前か…。また来たのか?」
打撲で切れた唇を拭いながら、若者は驚いたとも呆れたともとれない表情で、一度だけイウギの顔を見た。
 すでに視線の先は、目の前の納屋の奥に戻されている。今の彼は、あそこから叩き出された格好で、地面の上に座り込んでいた。
 納屋の家主が、不遜な顔で姿を現す。
「柴が欲しいなら、拾い集めて持っていけ!ただし、これが最後だと思えよ。今後二度とウチに近づくんじゃねぇ!」
フンと鼻を鳴らして、家主は分厚い材(き)の扉を閉めた。その際、イウギの姿を見咎めるのを忘れなかった。
「なんだよ、あれ!ひでーな!」
憤慨するイウギに、セツはむしろ窘めるような口調でこういった。
「…仕方ないさ。こうして柴を分けてくれるだけでも、温情があるってものだ。…それよりも、何でまた来た。もう来るなと、昨日言っただろう。」
よろよろと立ち上がろうとする若者を、イウギはあわてて支えた。
「だ、だって…セツのことが心配で…」
「しかも一人で来たのか?まったく、どうしようもない奴だな」
そういって見せた彼の表情は、しかし笑っていた。


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