14−8

「あった!これだ!」
純白の背景の窓を背に、青年は高らかな声をあげた。
 一抱えもある、大きな革表紙の本を片手で持ちながら、不自由なく文字の上を滑らせるその指は、なにか手慣れたものを感じさせた。
「聖僧会・・・やはりこの地に巡礼に来ていた…戦いの末『悪意』を葬り…そしてそのあと、『第二の国の出口』に塚を建てた、か。」
思案に耽る彼の表情は逆光となっていて見えない。窓辺に光る銀の縁(ふち)が鈍く翳った。彼が柱に肩を預けたのだ。
「『塚』…これが『吸血鬼の墓場』の正体か。何百年も前に施された封印なら、そろそろ綻びが出来ていてもおかしくないな…。それに、今は末世…、復活するには好都合な時代だ」
およそ普段の彼には似つかわしくない、低くて温情のない声が響く…。
 今の彼は敵をどう葬るかで頭がいっぱいだった。今この時、人が通りかかっていたら、彼のその姿をなんと観ただろう。
 静かな空洞に鐘が鳴り響く。教会が鳴らす午後の鐘だ。それと共に顎に当てられていた指が、ふと外される。
「いけない、役所が閉まる前にイウギさんの入国手形を作っておかないと!」
そう云って、窓辺を離れた時にはもう、普段の彼だった。いつもの調子(トーン)で独り言を言うと、素早く本を棚に戻し、早足で人気のない図書館を出ていった。後に残るのは、いつものように陳列された本棚と、真っ白い光で満たされた窓だけであった。


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