14−7

 あまりの突然さに声も出なかった。驚愕したまま振りむいて、相手の顔をおそるおそる見れば、それはいかにも哀れな顔つきの老婆だった。
「マールン!マールン!戻ってきたんだねぇ!」
憔悴しきった生気のない面立ちなのに、目だけは炯々として一心に自分の顔を見据えてくる。
「マールン、マールン!うちの子が戻ってきたよぉ!」
背中にどうと冷や汗が流れる。必死に腕を引き抜こうとするが、向こうもすごい力でなかなか離そうとしない。
「ああ、何処へ行くんだいマールン!もう何処にも行かないでおくれ!」
「違…っ、離して!離してよ!」
老婆はぐいぐいと納屋の中へと引き込もうとする。自分も大概の力の持ち主だが、この老婆には鬼気迫るものがあった。イウギは恐ろしくなって叫び声をあげた。
 騒ぎを聞きつけて、奥から老婆の息子らしき男が飛び出して来た。
「婆ちゃん、違うって!こいつはうちの子じゃない!人違いだ!」
男は力任せに二人を引き剥がす。はねとばされた勢いで、イウギはよろけて歩道へと躍り出た。
「うちの子はもう死んだんだ!吸血鬼に攫われちまったんだよ!もう諦めなって!」
まだ何が起きたのか分からないイウギは、ドキドキする胸を抑えて男と老婆を凝視する。
 男の言葉を聴いた老婆は、今度は大声を上げて泣き崩れてしまった。地面にうずくまろうとする彼女を男は必死に抱え上げ、運ぼうとする。そして、そばで唖然としているイウギに気がつき、厳しい目つきでこう言い放った。
「ほら、お前もどっかいけ!こんな所にいると暗い森の中につれてかれちまうぞ!自分の家に帰っておとなしくしてな!」
泣き叫ぶ彼女を引きずるようにして、男は納屋の奥へと入っていった。
「自分の…家・・・」
…後には呆然と虚空を見つめる子供と、再びちらつき始めた雪だけが残された。


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