14−6
冬になった。雪になった。 忌々しい僧侶どもの封印が解けて、やっと外へ出られる。 暗い森の虚(うろ)から、ひょこと顔を出した小鬼は、丘の上から眼下に広がる村の景色を眺めた。灰色の雲が裂けて晴れ間が見える。忌々しい、あの光。僧侶の使う物と同じものだ。 フン、と鼻を鳴らし、小鬼は角笛を取り出した。クナイ山に住む大山羊の角から削りだした鬼笛(きてき)である。一吹きすれば、暗雲を呼び、冷たい風を吹かせ、人の気を狂わせるという代物(もの)だ。小鬼は大きく息を吸うと、力強く、それを吹いた。 すると、たちまち晴れ間は消え失せ、暗澹たる冬の層が顕わになった。空気は凍え、大地の色は褪せていった。麓の村は灰色の丘の腿に挟まれ、閉塞感に囚われる。 少し間を見てからもう一度吹く。今度は村の方に向けて一直線にだ。こうして鬼の音(ね)を万遍なく響かせると、じきに餌の方からこちらへやってくる。
このお役目も、この冬で終わりだ。「アレ」が発芽すれば、自分は自由の身になれる。小鬼は再び力強く笛を吹いた。音でない音が、丘から平野へと駈け下りる。餌の影が現れるまで、小鬼は笛を吹き続けた。
しかしどうしたことか、今年は1っ匹も網にかからない。音が詰まったかと、笛の穴をほじくって吹いてみるが変わらない。苛々としながらも、小鬼は首を傾げた。 今年はやけに人間どもの警戒が強いのか、もしくは餌をとりすぎてもう残っていないのかも知れない。 「チッあともう一息なのに」 悪態づいて、彼は再びあなぐらの中へと戻っていった。
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