14−2

「セツの家にはな、木彫りの小さな人形がいっぱいあるんだ。なんか一つ一つに名前があるみたいだった。」
暗い空の雪の丘を降りて行く道々に、イウギは青年を待っていた間の出来事を愉しげに話してくれた。

《ユノ…イリノア…ライナス…みんな俺の知り合いだった奴らだ》
窓辺の板間に飾られた、人形の一つ一つを指さして、セツはそう語った。
人形はどれも天使や賢人の姿をしており、聖なる存在をかたどった物のようだった。
《セツのはないのか?》と訊いたら、
《ああ、俺はここにいるからな…》と言ったのだそうだ。
 イウギは事情を何も知らないので、その言葉の意味を分かってはいないようだったが、青年はこれを聞いて、ますます彼の境遇を憂いた。
(このままにしておいてはいけない・・・)
そんな思いが強く心に根付いた。

「あ、イウギさん。ちょっといいですか、」
村の出入口近くにさしかかったところで、セルイが足を留めた。見ると、一軒の家の軒先が気になるようだ。
「ここのは、まだだったかな・・・」
そう言って、懐から細いひものような物を取り出すと柱へと巻き付け始めた。
「なんだ?それ」
暗くてよくは分からないが、白い布を裂いて作った物のようで、赤い斑のシミが付いている。
「気休めの魔除けです。こんな物でも無いよりはマシですから・・・」
苦笑いを浮かべる青年の顔は、しかし存外真面目なのだと少年は気づいていた。
「セツも云っていた、魔除けって・・・俺その人形もらったんだ。」
「そうですか・・・それでは、それは肌身離さずもっていなければいけませんよ。・・・イウギさんを守る物ですから」
そう言って青年は暮れかかる朱の空を見つめた。


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