13−6
翌朝もよく晴れた。昨夜の氷点下で、雪はかちかちに凍っている。白い素面がなめらかだ。 そんな雪道をザクザクいわせ、二人は昨日来た道を戻っていた。平野といえども、さすがに朝は寒い。吐く息は白く、横に棚引いた。 セルイは子供の様子を窺う。昨日は急に元気をなくした様子だったので内心心配していたのだ。その上、こんな事につきあわせてしまって申し訳ない…そんな気持ちを抱えながら歩いていた。 しかし青年とは逆に、イウギは多少嬉しい気持ちになっていた。セルイが自分の意見を通そうなんてなかなかないことだ。なんだか、彼の意志が見えて、しかもそれに自分も同行できることが嬉しかった。 朝焼けに向かって歩く道は、薄紫色に染まっていて、とてもきれいだ。腕を大きく振り上げて前進する少年の様子が、元気そうなので青年も安心した。金色に棚引く陽に向かって目を細め、これからのことも含めて祈るように、お辞儀の真似をした。 すぐわきで、イウギが跳ねてから云った。 「これから村に戻って何をするんだ?」 「ええ、町で気になる噂を聞いたもので…それに村の様子も変だったので、もう少しちゃんと調べて確かめたいんです。」 「ふ〜ん…」 イウギは特にセルイのしようとしていることに対して、疑問や意見はないようだ。 具体的には何をするのかはまだ決めていない。とにかく、村人に直接会って、話を聞かなければ・・・しかし。 (外部に対して大分警戒心が強くなっているだろうし、簡単には村の事情を教えてはくれないだろう。それに下手な行動は控えなければ…) 再び思案顔になってしまったセルイを横に、イウギはイウギであたりの様子を気にし始めていた。先ほどの輝かしい光が少し翳(かげ)ってきたような気がしたのだ。 なぁ…セルイ…そう話しかけようとして、イウギは不意に立ち止まった。 「?」 セルイもその様子に気がついて少年の方に振り返る。 「どうかしましたか?」 「今…何か、聞こえなかった?」 不審な音が耳元で聞こえたような気がしたのだ。いや、そう思ったけど、その音は遙か遠くに引いていってしまったようなのだ。イウギは未だに注意深く辺りを窺っている。 「音ですか?いえ…気づきませんでしたが、」 セルイも周囲を見回してから、上空を見仰いだ。雲が…風に運ばれて次々と去ってゆく。そして、遠くの日の光を遮ったり、反射したりしている。 「風の音ではないんですか?」 「うん…そうかな。」 あまり、納得した様子でないイウギはしばらく考えていたが、再びとぼとぼとセルイの後をついてきた。そんな子供の様子に、青年はまた顔色を暗くした。 「また、陽がかげってしまいましたね・・・」
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