13−5

 食事を終えて二階に上がってくると、二人は早々と寝支度を整え始めた。長旅でだいぶ疲労もたまっている。明日も早くに町を出るのだから、早めに寝た方がいい。セルイの言う、ケレナという都市はもう目の前なのだから。
 明かりを消して、それぞれの寝床に就いた二人は、しかし、なかなか寝付けなかった。寝付けない理由はそれぞれであった。
 イウギが何度も寝返りを打っているのを聴いて、セルイが静かに話しかける。
「寝付けませんか…」
「…うん。」
「体の調子は…?」
「それはもう大丈夫。平気」
イウギは天井を仰ぎ見た。雪で窓の外は青白く光っているが、部屋の中は闇が降り覆ってきているようだった。
「セルイは…何か…心配事?」
「ええ………イウギさん、」
ふいに名前を呼ばれて少年は声の主の方を向いた。彼も天井を見つめたまま、動かないでいる。
「ケレナに向かうのは、イウギさん…貴方の…お兄さんを探すのに有利だからです。あそこは大きな街で…役所もある。出入国者の管理も徹底しています。だから…」
イウギは息をのんだ。
「早くケレナに向かった方が、本当はいいのですが…」
「え…」
イウギは予想外の言葉に、目を丸くした。そして黙って次の言葉を待った。
「ロッソの村に…戻ってもいいでしょうか。もちろん、宿はこのままとっておきますから…」
言って青年も子供の方を向いた。決意の瞳がこちらを見据えている。
「すいません…こんな、わがままを言って…」
イウギはすぐには言葉を返せなかったが、やがてこういえた。
「…いいよ。全然いいよ。セルイが気になるって言うなら、俺もついてくし。兄貴を捜すっていうのも、そんな急いでる話じゃないんだから、」
焦ったように、言葉をつなげる子供に、セルイはやはり気を遣わせてしまったか…と苦い気持ちになった。そして「すみません…」ともう一度だけ言って眠った。


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