13−3
それから四半刻もあるいてようやく小さな村が見えた。畑のあちこちに小屋が建ち、その板戸は黒々として、頭に白い頭巾を被っている。その裾が、時々重い音を立てて地面へ落ちた。広い土地を利用して、家々は割とまばらに建っている。しかし、その煙突からはどこも白い煙が絶えず立ち昇っていた。 カチ…、カチ… 鈍いような通るような音が村から響いてくる。イウギがあれは何かと青年に尋ねると 「鍛冶でしょう。春秋通して使った農具をこの時期に直しているんです」 という答えが返ってきた。 それから青年は村の中心へと続く狭い路地へと入っていった。イウギもそれに続こうとしたとき、ふと遠くの丘に、黒い人影が動いているのに気がついた。そのそばに一軒の家が建っている。あんなところにも人が住んでいるんだ…、そう思ってすぐに青年のあとを追った。
「すみません、この辺に泊まれそうな宿はありますか?」 たまたま開いていた窓の一つに顔をのぞかせて、セルイが家の住人に話しかける。しかし、村人の反応は芳しくない。じろじろと旅人の風体を見て「ないよ」と冷たく言い放ち窓を閉めた。青年が小さく嘆息するのが聞こえる。イウギもなんだか冷たい気持ちでそれを眺めていた。 何軒か回って同様に尋ねてみたが、帰ってくる返事は一緒だった。イウギも小さく溜め息をする。…ここは、気候は山ほど冷たくないけど、なんだかずっと胸の冷えるところだ。イウギは自分の息が、あっという間にかき消える様子を何度も見た。 口から出(いで)た温かい吐息は、外気に触れると一気に冷えて、白く、霧散する。 「もう少し、探してみましょうか、」 やや力無い笑顔を浮かべて、青年がまた家を探し始める。子供はその跡を黙って歩いた。 最後に回ったうちで、若い金髪の女の人が不憫そうに旅人を眺めてこう言った。 「…悪いことはいわないから、早く次の町へ行った方がいいわ。急げば、今からでも日暮れに間に合うでしょう…。この村でいくら宿を探しても、泊めてくれるところは一軒もないわよ?」 「…それはどうしてですか?」 セルイは沈痛な面もちで、じっと婦人を見た。彼女の表情も沈む。 「この村は…よそ者を受け付けないのよ。私も2年前に隣町からここへ嫁いだけど…、いい思いをしたことはないわ。旅人ならなおさらよ」 セルイの顔を同意と受け取って、彼女は暗い顔で窓の戸を閉めた。 青年はしばらく沈黙していたが、やがてイウギの方に向かって言った。 「仕方がありません…。急いで次の町へ進みましょう」
日がほとんど落ちかけた、暗い雪道をとぼとぼと往く。雪は、夕暮れに陥ると白から青へと変わる。昼に見た時よりも、その素体は固そうに見えた。気温も下がってきている。 「すみませんね。こんなに遅くになってしまって。」 落ちかけの日のように、セルイは沈んだ声でイウギに言った。 「うーうん、別にセルイのせいじゃないよ。」 イウギはもちろん本心でそう言ったが、たとえお世辞で言っても、青年を慰める言葉は見つかりそうになかった。 「…5年前はそんなこともなかったんですがね…」 独り言なのか、青年は妙に小さな声で呟いた。イウギは黙って、青年と夕陽を見ていた。
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