13−1
「うわあ…すごい!」
森を抜け、小さく盛り上がった土手を登りきったところで、イウギが叫んだ。眼前には広大に広がる平野が、薄く雪を被って眠っている。 土手縁の先に立ったイウギは3方をぐるりと見回した後に、両腕を高々と持ち上げた。 見渡す限りの心震える景色、山からは低地に向かって気持ちのいい風が吹き降ろしている。イウギの故郷では森林が幾重もの垣根となり木々が土地を覆っていたが、ここでは土地が森を覆っている。 「すごい、すごいな!セルイ、ここは広くて…なんか果てがないみたいだ。」 「これがセラルディア大平原です。果てはありますが、確かに大陸一広い所ですよ。」 イウギに並んで立つセルイも、感慨深かそうに景色に見入っている。 「セラルディア…」 イウギはその心地のよい響きを静かに心の奥に留め置いた。
ヤナイと川下の街で別れて三日。再び雪深い森の街道についた二人は、それでも何とかこれを抜けることが出来た。5大国が治める領地に入れば、道は平坦だし整備もされているので旅も楽になるはずだ。セルイは新たな警戒をしなければならないのにも関わらず、重荷が一つとれたようでほっとしていた。 大昔に突如として出来た巨大な窪地、そこに永い年月をかけて山の土砂が流れ込んで出来た肥沃な土地がセラルディアだ。河は大きなものが3本あり、うち東に抜けるものが1本、西に抜けるものが2本ある。伝説では、巨人が剣でもって切り開いたものだといわれているが、個々の河でもそれぞれが起源伝説を有している。支流を含めると川の数は30以上にもなり、人々はその水でもって耕地を拓き、日々の糧を得ているのだ… 雪原をゆく道すがら、セルイはこの土地についての話をしてくれた。イウギはそれに聞き入りながら、砂利道の雪の溶け残った部分を、遊びのように避けて進んでいる。この辺りの雪は積もっても浅く、溶けるのも早いようだ。気候も山に比べれば寒くない。全てが穏やかで、平坦で…まるで誰かの気質のようだ。 イウギはそっと青年の方に目を向けた。彼はこの土地についての知識が豊富だ。そういえば以前、これから故郷に帰るところだというような事を言っていなかったか…。 青年は相変わらず饒舌にこの土地の事を話している。朗らかな笑顔に普段とあまり変わったところも見られないが、機嫌がいいといえばそう見えなくもない。イウギはなにかを訊こうと思い、口を開きかけるが、うまく言葉が出なかった。その様子に気が付いて、青年が逆にイウギに尋ねてきた。 「なにか…訊きたいことがありますか?」 空よりも青い目に見据えられて、少年はますます聞きたいことがわからなくなった。そこでとっさに、こんな事を質問してしまった。 「う、ううん…。いや、なんだかセラルディアって名前がセルイの名前に似ているな…と思って、その…」 少年の言葉に青年は目を大きくした。また感慨深そうに、しばし考えてから言った。 「ええ…そうなんです。私の名前は…『セラルディアに住む人』という意味の“セルディア人”からとられているんです」
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