12−15

「…いいのか?」
と、燭台を渡しながらヤナイが訊いた。セルイはそれを受け取りながら頷いた。
「私は…イウギさんの選択に従います。これ以上、あの子を不幸に出来ない…私には…選ぶ権利がないから。」
そう言って笑う青年の顔は少し寂しそうだった。ヤナイも複雑な表情でそれを眺める。
「最初にアンタからその話を訊かされたときは驚いたよ。正直…その通りだった。俺は、あいつに…死んだ弟を重ねていたのかも知れない。だから、あいつを大切に養う自信はあった。親父もお袋も一緒だったみたいだ。俺がその話をしたら…そうなったら嬉しい、って言ってたし…。でも…」
「ええ、決めるのはイウギさんです。」
二人が町の角路を見やると、ちょうど一行が、戻ってくるところだった。

 広場に戻ると、果たして二人は同じ場所で待ちかまえていた。マーシャに別れを告げようと、イウギがふり返ると、俄に彼女がキスをした。きょとんとする彼に、彼女が言った。
「名無しの泣き虫んぼさん。もっと強くならなくては駄目よ?あなたは素晴らしい物を持っているわ。私知ってるの。病室で寝ているとき、廊下を駆けていったのはあなたね。いつも必死な足音で…きっと一生懸命なんだなってわかったから。」
手から彼女の温もりが去ってゆく。
「私の病気を治してくれたのは、きっとあなただって思うのよ。だから、ね?もっと自信を持って」
にっこりと笑んだ彼女の顔はとても美しかった。イウギは彼女に何も返せないまま、その顔を見つめていたが、彼の返事を待たずして、彼女は路地へ走り出してしまった。そしてだいぶん行ったところで、ふり返って手を振って言う。
「もっと、じぶんを、信じてー!」
そう叫んで、雪の向こうに消えていった。
 イウギは彼女の去った後をしばらく見つめていたが、やがて青年二人の方へ歩き出した。二人は灯りのついた蝋燭の皿を持ったまま、少年が歩み寄ってくるのを待っていた。町は人気も去り、明るい飾りの星だけが、キラキラと輝いている。
 沈んだ顔になっているイウギに、ヤナイはやや憤懣ぎみに両手の燭台を差し出した。
「お前の分の燭台だ…どちらか受け取れ」
何も考えずに、その皿を受け取ろうとしたとき。ヤナイが再び強い口調で言った。
「よく考えてとれよ?」
そう言われて、イウギははっとした。先程の質問の答えを、今問われているのだ。ふとセルイの方を見ると、彼は少し寂しそうな顔で笑っている。
 イウギはようやっと先程の質問と、この差し出された蝋燭の意味を理解した。そして、むしり取るように青年の蝋燭を奪い取った。・・・すなわち、セルイの。
「俺はこの町に残らないよ!?置いてかれなんてしない!!ずっと…あなたについていく!!」
うわーん!と声を立てて泣き出す子供を、セルイは慌てて宥めて、謝った。
「イウギさん、すいません…こんな…試すような形を取ってしまって。あなたを…、あなたを悲しませるつもりは…」
見ると、ヤナイはやれやれといった形で首を振っている。おおかた予想していた結果だとでも言いたげだ。セルイは再び子供の頭に視線を落とした。
 町には…温かい家も食事もあるし、何より家族になってくれる人たちがいる。同じ年頃の子供もいるし、友達だって出来るのに…それなのに何故、何故この子は自分を選ぶのだろう。
「私では…きっとあなたに何も与えてあげられない。あなたをきっと不幸にしますよ?」
えっえっ、としゃくりをあげていたイウギは半分怒ったような口調で続きを言った。
「…何も与えられていないなんて、ことはないよ…俺はもう、十分に色々セルイからもらったよ。だから、与えられなくっても好いんだ。不幸になんてならない…それは俺が約束するよ、決めるのは俺なんだから。不幸になんて思わない。」
二人の間にしんしんと雪は降り積もってゆく。


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