12−9
宿に戻ると、すでに青年は戻ってきていた。開口一番、少年は彼に問い質した。 「セルイ、一体何処にいっていたんだよ?」 「え〜と、朝は教会に礼拝に…」 「うそだ、俺教会の所に行ったぞ。」 「ああ…その後、鉱山の方に行っていたから入れ違いになってしまいましたね、すいません。私に何か御用でしたか?」 「別に…用って訳じゃないけど…」 イウギはなんだか憮然とした。ヤナイにしてもセルイにしても最近ちょっと変だ。自分に妙によそよそしいし、あまり口を利いてくれない。 少々むくれた気分になったイウギはそのまま青年とは別の、離れた窓側の席に座って外を眺めた。 雪はどんどん降り積もっている。白と灰色が入り交じった美しい世界だ。だけど、どこかが必ず寂しい。 空っぽな胸の内を紛らわすように、イウギは先程聴いた教会の旋律をおぼろげながら口ずさみ始めた。
おお、ベスレヘムの小さな町よ、独り眠るか
いと高きところ、黙って星は行き過ぎぬ
いまだ暗き坑道(みち)の中は、
常(とこ)しき光を知らず、
日々襲う期待と不安は今宵、汝と邂逅す
死する人々が眠る間に、すべてが上空に集結し、
聖女(とこめ)は光の御子を産む
天使(あい)に守護(まも)られながら
おお朝(あした)の星(ひかり)よ、
聖誕を公にせしめよ
そして主なる神に感謝を、
地上の人々に平和を!
ああ、何と静かに、密やかに、
貴方は下賜(くだ)されたことか!
そう、神は人々の祈りに、祝福を与えられる
だがこの罪深き世の中、
来迎を音に聞く者はなく
素直な魂だけが彼の寄り来る場所となる
おお、いと清きベスレヘムの御子よ!
我らに降り給え
我らに降り、罪を棄(ながし)て、
我らの中で生まれ給え!
我らは使徒の声を聞く
その吉(え)しくも喜ばしい託宣を
どうか我らの元に来て共に留まり給え
偉大なる救世者よ!
…不思議な旋律だ。歌っているだけで何かが満たされてくる。 あまりにも恍惚とした気分になっていたイウギは、すぐ傍に一人の聴衆がいたことにも気づかなかった。
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