12−8

 イウギが外へ出ると、嵐のあった余韻はすっかり消え去っており、辺りは本来の寒さを取り戻していた。昨夜のうちに降ったのか、わずかに雪嵩が積もっている。それを避けるようにして、町の中央へ歩いてゆくと、なにやら星を頭上に掲げる鉄塔が立っており、そのまわりを華やかな飾りが取り巻いていた。家々には明るいろうそくが点っており、町はすっかりお祭り気分になっている。
 イウギは珍しげに、その一つ一つを見て回った。何処の家でも祭りの準備に忙しいらしく、たくさんの料理やお菓子でテーブルが埋め尽くされている。外壁は針葉樹の葉とリボンで飾られて、金銀とりどりの星が煌めいている。この町には、こんなに人が居たのかと思うほど、町は活気にあふれていた。
 昼を過ぎても太陽の出る様子はなく、むしろどんどんと冷え込んで、ついに小雪が降り出した。だがイウギは、宿に戻る気にもならず、セルイの姿を探して道路を東の方へと歩いていった。
 するとほぼ町の外れに小さな教会があり、そこで聖歌隊が野外練習をしているのを見つけた。見物人が何人かいるが、その中に金髪の青年の姿はない。仕方なしに、イウギは聖歌隊から少し離れたところに腰を下ろし、その歌声に聴き入った。


世に歡びあるとき、則ち主は寄り来たり
さあ、大地が主(あるじ)を迎えませ
諸人がかねてより心待ちにしていたものを、
天地(あめつち)歌い、歌い、言祝ぎぬ

世に歡びあるとき、救世者は世を領したり
悪魔が降らす矢(夜)を薙ぎ払い、声を尽くして歌いおれば
捕虜(とりこ)は放たれ、
平野(や)に大水(みず)、岩石(いわ)、丘陵(おか)に、
そして太地に、福慈は鎮(やす)んじ坐(いま)します

負わされていた罪も抑圧も、
地に巣くっていた悩みの種も もはや無く
恩恵(めぐみ)の血の流(ゆ)を与えんがため
彼は来ませり
その地の呪詛さへ見い出して、
その地の呪詛さへ消し去りき

彼、至誠と慈悲でもって世を導き、
その証(しるまし)を与えたり
それこそ彼の有徳たる栄誉、驚くべき彼の慈愛なり
誉めよ讃えよ、
故に我らは歌いておりぬ


 白い服の男が隊の目の前で指揮を執り、黒い服を着た他の男女が一斉に同じ文句を歌っている。直立したまま同じ方向を向き、踊りもしないなんて変な歌だな、と思いながらも、イウギはその変わった旋律にいつまでも聴き入っていた。もともと彼も彼の一族も、歌や音楽は大の好物である。それさえあれば、ときに水も食事も要らないほどに、心安らかに満足することが出来た。
 隊が一曲歌い終わり、曲風の違う別の歌をもう一つ歌ったところで練習は中断された。雪が激しくなってきたのだ。見物していた人たちも、頃合いと見て家に引き上げて行った。誰もいなくなった広場で、イウギは降り注ぐ雪を見ていたが、やがてぱっぱと粉を払うと、宿に向かって駆けていった。


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