12−7

 次の日目を覚ましたイウギが、階段を下りてゆくと台所から活気のある笑い声が聞こえてきた。何事だろうと覗いてみると、女性が幾人か集まって、腕まくりをし丸い団子を捏ねている。シロップで煮た大きめのミラベルを真ん中に埋め込んで、そのまわりを別切りの生地で飾ると鉄板の上に載せていった。その凝った造りに興味を惹かれ、イウギはまじまじと作業に見入った。
「…また何か、お祝いするの?」
その声で子供の存在に気づいた婦人たちは、おのおの諸手をあげて彼に手を振るった。今は入ってくるなという合図だ。
「あらあら、おはよう、寝坊助さん。食堂にご飯が出てるから、それを食べたら少し町に散歩に行っておいで」
台所の奥からひょいと顔を出した女将さんがにこにこしながら、子供に言った。
「お連れさんも今し方出ていったところだよ」
それを聞いたイウギは、一旦首を傾げてから、そう…といった。すると女性の一人が思わせぶりな口調で彼に言った。
「帰ってくる頃には、きっといい物が出来てるから、楽しみにしておいで」
その途端、婦人たちの間から笑いが湧き起こった。イウギはまたもや首を傾げつつ、食堂の方へと向かっていった。
 ガランとして人気のない食堂には、ヤナイ一人が難しい顔をして座っていた。イウギはその斜め前に据わり、自分用に残された皿の中身を食べ始めた。どうも昨日から、青年の様子が変だ。イウギとあまりしゃべろうとしないし、笑いもしない。いつもは口に戸は立てられぬと言った調子で五月蠅いくらいなのに。
「なぁ…」
何かあったのか?と訊きそうになったところでヤナイの言葉がそれを遮った。
「お前さ、ここの暮らしをどう思う?」
「は…」
唐突な質問にイウギは間の抜けた声を出した。どうって別に…
「悪くはないと思うよ?町の人はいい人だしさ、そりゃ…土地の毒がどうのってセンセイがいってたけど、それももう心配ないと思うし…」
ご飯もおいしいし、と付け足したところでイウギはまた自家製のパンにかじりついた。ヤナイは人の話を聞いているのかいないのか分からない様子で、う〜んと唸っている。イウギはますます怪訝な気持ちになった。
「何だよ…どうしたっていうんだよ。ヤナイはこの町を出るつもりなのか?」
この質問に、ようやっと青年が顔を上げた。
「あ?いや…?俺はもう…そんなつもりは全然ないぜ。金鉱も出たことだし、これからが稼ぎ時だしな。今まで赤貧だったのをこれからどんどん取り戻さなきゃいけないんだ、人手がいるんだよ。もうさぼってなんかいられない。」
ふ〜ん、といってイウギは最後の一欠片を放り込んだ。じゃあ、なんでそんなに考え込んだ顔をしているんだ?…そう思ったが、それを質す前にヤナイが席から立ち上がった。
「ああ〜だめだ!こんな所じゃ考えがまとまらねぇよ!ちょっくら坑道いってくるわ、親父を手伝ってくる!」
「え…?うん…」
言うが早いか、ヤナイは道具をひっつかんで扉の外へ出ていった。イウギは訳も分からず、閉まるドアの余韻を見つめていた。


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