12−6
宿の中でも奥まった、階段の裏側で二人はしばし沈黙の時を過ごしていた。どちらかといえば、セルイの方が、苦り切った顔のヤナイの第一声を待っている格好だ。頭の中で、言いたいことを色々と巡らせていたらしいヤナイが、ようやっと口を開いた。 「…アンタはさぁ、あいつのなんなわけ?」 …とても静かな問いだった。あいつとはイウギのことを指している。それでセルイは答えに詰まった。今度の沈黙はセルイに属している。 明確な答えが返ってこないのを見取って、ヤナイは厳しい表情で代わりに答えた。 「あいつの保護者だろ。」 青年は視線を落としたまま、小さく頷いた。ヤナイが溜息をつく。 「保護者なら、保護者なりの“責任”があるとは思わないのか?」 沈黙はやはり、セルイに属したままだ。 「アンタが病気してる間、あいつはどんな表情でアンタのことを心配してたと思う?今からじゃとても言えないけれど…なんていうか、」 そういって青年は再び言いたい事へのまとめにかかった。しばらく考えてから、決したように口を開く。 「…とても見ていられなかったよ。子供にあんな気遣いさせるようじゃ、保護者失格なんじゃないか?」 言いたいことを一通り言って、ヤナイはきゅっと口を閉じた。今度は相手の出方を待っている。 セルイは言葉の一つ一つをとても深く受け止めていた。彼の言っていることは尤もで、自分が限りなく卑小に思えた。 「・・・イウギさんには、本当に申し訳ないことを…私が至らないばっかりに辛い思いばかりさせて…本当に。私にはありませんよね、そんな資格…」 とても沈痛な面もちで、しかも本心からそう言ったセルイに対し、ヤナイは烈火の如く怒声を浴びせた。 「だから、そういうのがあいつを辛くするんだって!!〜っ、なんていったらいいのかな〜、だからよ、そう言う卑屈になるのはやめてさ、もっとなんだ、自信を持てっていうかさ!」 急にやきもきし出したヤナイに対し、セルイは目をぱちくりさせた。 「えっ、でも今、私に保護者は無理だと…」 「いやだからさ、そうじゃなくって、肩肘張らずにもっと楽になれっていってんだよ。無理だとおもうんなら無理を止めれば好いんだって!」 言っていることが支離滅裂で、セルイにはよく理解できない。ヤナイ自身も頭に血が上っているなと思って、頭を振ってもう一度考えを整理してみた。 「だから…アンタはさ、無理をするのが好きみたいだけど、そういうのってさ、傍で見ている方も緊張するんだって。アンタがずっとそうやって生きてきたんなら、急に変えろって言っても難しいとは思うけど…もうちょっと気を楽にしてやって、あいつが心から安心できる居場所をつくってくれよ。今のあいつには結局アンタしか居ないんだからさ。」 ヤナイの話の一部始終を聴いて、セルイは少しく微笑んだ。 「そんなことは…ないと思いますけど、」 「あ?」 セルイの言葉に、今度はヤナイが怪訝な顔をする番だった。 「ヤナイさん…お願いがあるんですが」
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