11−4
「うを!?真っ暗だ!!」 外に出るなりヤナイが叫んだ。手に持つランプをかざしながら辺りの様子を確認する。空気に湿気が大分混ざり込んでまとわりつくようだった。 「な〜んか湿っぽいな。それに…」 あたたかい・・・? この時季にはあり得ない温度と湿度になっている。空気は重く、のし掛かるようで星明かりも全くない。視界が利かないのは目が暗闇に慣れていないせいだけではなさそうだ。 周囲は真の闇に閉ざされ音もない。…まさか本当に嵐が来るのだろうか? ふり返って子供の顔を見ると俯いて何か考えているようだった。暗くて表情は見えないが、身体が強ばって緊張している。早く、早くしないと、そういう気の焦りがこの子にそうさせているのだと分かる。 「急いで帰るか!走るぞ!」 この言葉に子供はぱっと顔を上げた。 「うん!」と威勢のいい声が返ってくる。 二人は真っ暗な山道を、上も下もなく走り抜けた。
帰ってくるなり、息を切らして叫ぶ二人に女将さんは目を丸くした。どこに行っていたんだと質そうとした言葉もどこかへ消えてしまった。 「親父を呼んでくれ!でかい嵐が来そうなんだ!」 息子のただならぬ様子に、彼女は理由を訊く間もなく、旦那を呼んだ。 この騒ぎで姿を現した主も、真剣な顔つきで倅の顔を見た。青年は父親の顔を真っ直ぐ見ながら低い調子で話した。 「…でかい嵐が来る。大雨になりそうだ。早めに準備をした方がいい。町のみんなも」 無言で息子の言葉を聞いていた男は、ややあってから頷いた。 「…お前は南のヤルベ一家から当たれ。俺は東と北に行って組合長と所長に掛け合ってこよう。戸締まりを固くして、何があっても外に出ないようにな。特に山と川には近づかないように」 そこまで言って、この親子は互いに目配せした後、飛び出して行った。女将さんに宿のことは頼む、と残して…
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