11−2

 この土地の人の願いを、みんなすくい上げて天に送ろう。きっと聞き入れてもらえるはずだ。
 セルイは頭上を天高く仰いだ。見えるはずのない星空が見える。天空円がまた動き出した。
「…イウギさん。顔を上げて、大丈夫だから。」
言われて、子供はその通りにした。暗がりの中でも、はっきりと見える彼の顔。それを見てイウギは安堵した。
 ここしばらく見ていなかった、柔らかな笑顔だった。その表情に嘘はなく、イウギは心から彼を祝福できた。
 何かを言おうとしたとき、ふっとあたりが暗やみに包まれた。慌てるイウギに青年は落ち着いた口調で窓を見るよう促した。
「星が…雲に隠れたようです。いよいよですね。」
最後の堰は除かれた。
 青年の唐突な物言いに、子供は怪訝な顔をした。ずっとこの部屋にいたはずの彼が、何かを知っている。
 再びイウギの方に向き直った彼は、慎重な口調で子供に言った。
「イウギさん。よく聴いてください。“嵐”が来ます。」
「“嵐”…!?」
子供は目を見開いた。その音には特別な響きが籠もっているように思われた。
「はい。今までにない激しい嵐です。停滞していた事態を一新する無量の風です。これに連れ去られないよう、身をしっかり守らなければなりません。」
 …いっていることがよくわからないが、今までにない彼の深刻な言葉に子供は緊張を強いられた。再び子供の顔色が曇る。大変な事態が近づいていることを肌で感じたのだ。
 強ばる表情の子供を青年は、今度は笑って励ました。
「大丈夫。きちんと用心していれば、恐れることはありません。嵐が去った後にはきっと良いことが待っています。これは、それまでの…辛抱ですから。」
イウギは黙って頷いた。確信めいた彼の言葉に嘘はないと思った。
 今までずっと、自分への気休めであると思っていた、彼の言葉。「数日の辛抱ですから…」それが今なら分かるような気がする。今なら彼を…信頼できる。いや、今はそれ以外にないのだ。そんな力が彼の声にはあった。
「イウギさんはこれから町に戻り、みなさんにこの事を伝えてください。空の様子を見れば、きっと納得してくれます。」
そういうと、青年は子供の手をしっかりと握った。
「大丈夫。辛いのは今夜で終わりですから」




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