10−9

「ここが昔、監獄に使われていたって話はもうしたっけ…以前は囚人がこの建物に収容されていたんだ。」
ぱらぱらとページをめくる手を眺めていたイウギは、ふと部屋の天井や壁に目をやった。雰囲気は変えてあるが、確かに古くて頑丈な造りの建物である。表の鉄扉はその名残だろう。
「このあたりは鉱物資源が豊富でね。囚人にそれを掘らせていたんだよ。もう100年も前の事かな。ヤナイ君達が今掘ってる穴の30メートル手前。あそこが銅を掘っていた穴だよ。」
そう言われても、少年には分からない。だが、ヤナイ達、大人が川の上流の森から帰ってくることは知っていた。森の先には赤い肌を露出した岩山がそびえている。川を赤くしている土砂も、あそこから流れてくるのだろう。
「もっと大昔は金もでたらしいけど、本当かどうかは知らないな。文献にちょっとでてくるだけだから。それで、銅を採掘してた監獄もやがて破棄された。汚染が酷くて囚人が全員死んでしまったんだね。…新しく投入するのも面倒になったんだろう。国がこの土地の所有権を手放したら、流れ者の坑夫の集まりがここに住み着いてね、根気よく穴を掘ったら鉱脈を見つけたのさ。銀朱のね。それで町は一時期栄えたんだけど…銀朱は浅めの鉱床だから取り尽くすのが早くて、今は閉山の危機さ。もともとあった土地の毒も酷くて、町の人の気持ちは揺れているよ。この土地を…捨てるかどうかでね。」

表情のあらわれない眼鏡が曇る。夜になって冷えてきたのだろう。鼻先に近づけていた本を、彼は閉じた。
「銀朱は薬にもなる貴重な鉱物だ。オリアタの街が医学的にあんなに進歩した場所になったのだって、ここの鉱山のお陰なんだよ。」
なにか遠い話を聞いているような気分のイウギがふ〜ん、と相槌を入れたところで、表のドアが鳴った。
「先生〜!うちんとこのガキ、きてない?」
ヤナイの声だ。


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