10−5
意気揚々とスコップや笊を担いで川へ向かう子供を、町の人は不思議な顔で見ていた。変わった子供が宿に泊まっていることは、ヤナイ周辺を通して少しずつ広まっていたことだ。今朝の出来事を見て、それは確定的になった。 今日も折から天気が悪く、暗雲が垂れ込めて川の水はいっそう冷たくなっていた。さすがのイウギでも、入るのを少し躊躇ったが、今日は道具があるからと川の中央まで水を足で漕いでいった。 さて、いざ道具を使おうと思うと、その使い方がよく分からない。スコップは川の土砂を掬う物で、笊や篩は土砂と丹粟を篩い分ける物だ。だが、どれをどの手順で使うのかがよく分からない。畢竟、独自の発想で使うしかなかった。 色々試した結果、スコップで笊に土砂を入れ、それを両手で抱えて上下に振ると振動の度合いによって大きな石などが飛んでいき、それ以外の土砂が残るということが分かった。残った土砂を目の細かな篩に入れ水に浸すと、今度は泥が流れていき若干の小石や砂だけが残った。手で拾える物はその段階で拾い、それ以下の物は窪みのある板に入れて水の中に入れる。すると、ただの石は流れていき、比較的重い赤い砂が多く残るのだ。このように選り分けて、瓶の中に納めると、イウギは腰を叩いた。 巧くすれば、何粒か赤い石がとれるが、これはなかなか骨の折れる作業であった。ずっと、かがんでいるので異常に腰が痛い。 イウギはう〜んと唸って河原に腰を着いた。瓶の中の赤い粒はきらきらと光っている。大きい粒が、5つほどとれた。数だけで言えば効率は上がっている。だが、慣れない作業で疲労もかなり溜まっている。イウギは疲れてだるくなり、氷のように冷たくなった腕を撫でた。 「今日はこのくらいにしておくか」 誰にともなく呟くと、作業を撤収して帰途についた。 宿で道具類を片づけて、換金屋へ瓶を持っていく。そしてお金に換えてもらった上で、また診療所の方へ向う。時刻は昼をとうに過ぎていた。
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