10−3

 その日も夕刻過ぎまで川にいた。遊びとは違い、目的があるのだから真剣度も違ってくる。暗くなって、川の中が分からなくなるまで、丹粟探しは続いた。
 町の家々に灯りが点り出す頃、ヤナイが探しに来た。
「お、いたいた。お〜い、飯だぞ〜」
その声で、ようやくイウギは水の中の手を止めた。ヤナイの差し出したタオルで足を拭くと、靴に突っ込み始めた。
「どうだ。なにかみつけたか?」
「うん…ちっちゃい奴を3粒くらい見つけたよ。でも昨日みたいな大きいのはないなぁ。」
靴を履くのを手間取っているイウギの様子を見ながら、ヤナイはそうだろうなぁといった。そんなに簡単に見つけられれば、ヤナイ達だって苦労はしない。彼らは今日も収穫がなかった。
「それにしても、お前良くそんな冷たい水の中に入れるよな。雪か水の妖怪なんじゃねーの?」
「…わかんないけど、寒いのは平気なんだ。水の中にいるのは気持ちいいし。」
それにしたって限度があるだろう、と青年は思ったが口にはしなかった。この子供がなんだか変わっていることは、前から気づいていたことだ。
 ようやく靴を履き終わったらしいイウギとともに、青年は宿に向かって歩き出した。町の灯りは貧相で、華やかな物など一つもない。今年も鉱物の収入は薄く、厳しい冬を前にして人々は慎ましい食事をしているに違いなかった。
「夏場は俺達だって川をさらうんだぜ。それだって、生活が苦しいからだが…ご婦人方の生足が見られるとあって、男どもはハンマー・スコップ放り出して川に見物に行くんだ。それがばれるとかみさん連中にしこたま殴られる。」
夏の風物詩だと言って、ヤナイは笑って見せた。
 丹粟取りは砂金取りの要領で、水の中で笊(ざる)や板を動かしながらさらった川の砂を選り分けていく。洗鉱という作業だ。それにしたって、砂金よりは重量がないからその作業も容易ではないのだが。
「みんなで拾うの?一遍に川の中で動いたら、赤い石が流れていっちゃうんじゃない?」
不思議に思って言ったイウギの言葉は青年に一笑された。
「手づかみでは拾わないさ。道具を使ってもっと要領よくやるよ。」
青年の言葉に子供は目を見開いた。道具…と呟いて、それ以上質問しなかった。


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