1−5

 再び夢の世界へ舞い戻ったとき、闇が復活していた。しかも錆色で、どろどろしている。
恐怖ではないものの、彼は大変な不快感を覚えた。これは不協和である。異質である。それだけがわかる。 鼻孔にまとわりついて離れない、この臭気は思考をどんどん鈍らせた。
 そう、物質の回転が、この錆色に囚われて次々と止められてゆく。これは自分でどうにかすることは出来ない。
向こうはこちらを襲う気はないようだが、代わりにどんどん《フィールド》を浸食している。
『逃げ場所から奪うつもりか…?』
 おそらく自分も近いうちに、あの渋色に囚われ、錆び付いて動けなくなり、息を引き取るのだなと思った。
 恐くはなかった。受け入れ難くもなかった。ただただ、不快なだけで…

 その時、頭上で光るものがあった。先程の夢の中で見た光より、鋭く、刹那的で攻撃的である。
 その白刃の切っ先は、自分を傷つけることなく精妙に錆を切り取ってゆく。その何と正確なこと!!
 おそらく1ミリでも、あの刃先がずれれば、自分は命を失うのだと思った。それでも安心して見ていられるのは、そのやいばが、自分に対して害意がないとわかるからである。
 錆がすっかり取り払われると、彼はすがすがしい気分になり、取り戻してもらった自分の《フィールド》で存分に駆け回った。
 しかし、その一方で何かを忘れたような心持ちがした。


 目が覚めたとき、めまいがした。体がだるい。痛みはない。その分、感覚が鈍い。言葉が断片的にしか出てこない。
朦朧とした意識の中、また誰かが話しかけてきた。はっきりと言葉が聞き取れたわけではないが、それが意図していることはわかったので頷いておいた。
 しばらくすると、自分のこと以外の部分にかまう余裕が出てきた。
視界の利く限り、あたりを見回すと、すでに夜のようである。先程言葉を交わした頃から、どれくらい経っているのだろう。その辺は判然としないが、自分が今、負ぶわれていることはわかった。腿の辺りに圧力を感じる。相手の背中だろうか、胸から腹にかけてがじんわり温かい。
 聴力が戻ってきた。単調だが、左右の均衡バランスが大変に整った足音が聞こえる。
顔のあたりに、先程の金の髪がある。くるくると巻いて、意外にくせがあるのが可笑しかった。
(自分の村にはこんな曲のある髪の奴、居なかったぞ…)
クックと笑ったとたん、一気に闇に落ちた。心底、心が冷える気がした。
 『自分はなにかを忘れている…』
絶対孤独。そんな言葉が頭をよぎった。詳しい意味は分からない。ただその音感が、今の気持ちと大変一致している。
 わからない…わからない…わからない。こわい!!
ぎゅっと両手に力がこもる。身が一瞬で縮んだ気がした。『味方が欲しい』! 一人だけでも良い。自分と一緒にいてくれる相手が欲しい。


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