1−4

 青年は戸惑いを禁じ得なかった。
やはり、動かしてはいけなかったか…。
 外傷はなくとも、内側でひどい損傷を受けているのは良くあることだ。しかし、それは自分にはどうすることも出来ない。
 見るとそのこぶりなその頭には大きな瘤が出来ていた。一目見て、良くないと思った。放っておけば、命に関わるかも知れない。
 短剣を取り出し構えては見たものの、決心が付かない。これ以上、この子の体を傷つけたくはない。しかし…
「神よ…」
青年の口からは、ごく自然にその言葉が出た。
 次の瞬間、青年は人が変わったように鋭い顔つきになり、短剣に力を込めた。


 ・・・夜になった。あたりは昼と同じように、穏やかに静まりかえっている。日のぬくもりが、まだ大気に留まっているようだ。
 一刻も早く村に行きたい衝動を抑えて、彼は子供の様子を見張りつづけた。今動かしてはならない。それでは元も子もない。 そう自分にいい聞かせて…。
 どうか、この幼い命を救ってください、神よ…。青年は祈り続けた。本来、彼にはそれしか許されていないのだ。
 禁忌を破った自分に、青年は驚いていた。自分は罰せられるかも知れない。それでもいい。
 どうかこの子の命を奪うことだけはお許しください…。

 青年の嘆願は聞き入れられたらしい。朝日とともに、子供は意識を取り戻した。青年は感謝の言祝ぎを三べん繰り返した。
 青年は、願えば叶えられるほど、神に近い位置にいる。それだけに禁忌も多い。18年間それを破ったことは一度たりともなかったのだ。
しかし、今回それを破った。《他人の体を傷つけてはいけない》…。後悔はなかった。しかし今、とてもひどい罪悪に駆られているのは、それでも自分が――破戒に対して――罪深さを感じていないからだ。《罪を感じないこと、それが一番罪深い》…。
 青年は泣きたい気持ちになっていた、それでもここで涙を見せる訳にはいかない。これは自分個人の問題であって、この子供には何の関わりもないことである。
 少なくとも、彼はそう解していた。
「気がつきましたか?急に動いてはいけませんよ。絶対に。約束してください。」
子供はうつろな瞳で頷いた。
 それを見て、青年は安堵したようだった。ほっと息をついて、笑って見せる。
「これから、森を抜けて村へ下ります。私がおぶりますから。いいですか。痛みを感じたらすぐに言ってください。痛みが取れる薬をあげますから。」
子供はやはりうつろな瞳で頷いた。


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