1−3
暖かな陽の光につつまれる夢を見た。今まで追いすがってきていた闇が、光を見たとたん急に弱々しくなって霧散した。
彼は安堵とともに、失ったものを次々と思い浮かべ、哀しい気持ちになった。
ふと目を覚ますと、柔らかい落ち葉の上にいた。少々濡れているが、日の光に照らされているので、どことなく温かい。
ふくらはぎや肘の後ろに土を感じる。自分は助かったのだ。―…でも何から?
意識が冴えてくるうちに、夢のことを忘れた。不思議な気持ちだった。二つの世界を行き来してきて、しかもその世界同士は相容れることがない。片方を思い出すと、片方を忘れる、そんなカンジだ。 「気がつきましたか?」 傍らで声がした。
驚いてそちらを見ようとしたとき、頭頂に鈍い痛みを覚えた。 「あ、そのままで。無理をなさらないで。崖から落ちたんですよ…?」 穏やかな声が再び響く。少年は、その声の主を見ようと無理にでも起きあがった。
「うぅ…」 鈍い痛みが全身を襲った。中でも、やはり頭の痛みが一番ひどい。
「無理をしてはだめですってば…」
誰かがそばへ近づいてくる気配がした。少年は、俯いてやまないその頭を、声の方へと擡(もた)げた。
…そこには、驚くほどまばゆい光があった。目を細めてそれを見ようとすると、それが人の顔であるとわかった。 少年は、この様な姿の人間を、今まで見たことがなかった。 光と思ったのは、明るい金の髪であった。少年は、金色の髪というものを目にしたことがない。そのように記憶している。初めて見る、それだけわかった。 そして、その顔、何と形容して良いかわからない。二つの大きな瞳が心配そうにこちらを伺っている。
その色はまさしく、深くて澄んだ海の色。しかし、少年は海を見たことがなかった。だからその色を何と評して良いかわからない。強いていえば、湖水の色に近いが、それでもこの色にはまだ足りない。
少年は自分の中に不協和を感じた。何かが変だ。でもわからない。頭の痛みはひどくなる一方である。
「とにかく今は休んで…。落ちついたら、森を抜けて近くの村へ行きましょう。」
「村…。ちかく…?」
不協和はますますひどくなる。もはや異質感といってもいい。
「この近くに他の村があるのか…?」
たどたどしい口調で少年は尋ねた。
「えっ…?」
相手は意図をとりかねたようである。
…もう限界であった。少年は余りの気持ち悪さに、再び意識を失った。
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