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 光が大きく瞬いた。白い陽光の中で、森の緑は良く映える。
その日の森は、何かに祝福されているようでもあった。
 落ち葉で敷き詰められた黄金の道を行く者が一人。旅人のようだ。
明るい象牙色アイボリーのマントを羽織り、裾の間からは青銅の古い鎧が見える。髪は陽光のごとくまばゆく、その容姿は雅で優しい。
 神に祝福されているのは、むしろこの青年のようである。
 小鳥がさえずり、虫が息をひそめる中、順調であった彼の歩みの前に、一羽の兎が躍り出た。
 兎はじっと、こちらの顔を見つめてから、繁みの中へと入っていった。何か誘われるようなものを感じ、繁みの先を見やると、先程の兎がやはりこちらを見てじっとしている。彼はしばらく考えたあと、繁みの中に分け入った。


 彼はほとんど、奇跡を見るような目で、その光景を眺めていた。
眼前には、30メートルを超す崖が上へとそびえ立っている。岩肌は、落ち葉で隠れているものの、相当に硬そうに見えた。
 そして、その岩元に転がっている影は、崖に対してあまりに小さかった。
 愕然として、近寄ってみると、影にはまだ息があった。外傷も、目立ってひどいところはない。ほっとして、その面(おもて)を見ると、やはりまだ幼い。十歳とおにもならない子供であった。
 骨などに異常のないことを認めて、彼は子供を休めそうな場所に移した。

「何故こんな幼子が、あんなところに…?」
子供を背負いながら、彼は思考する。
 この辺りに村はなかったと記憶する。街道からもだいぶん離れている。それなのに、この子供の服は軽装で、決して旅行者の風体ではない。
 いぶかしみながらも、彼は平らかな日溜まりを見つけ、その小さく冷たい体を横たえた。顔だけは木陰に入っている。
 日の下で見ると、その体には大きな外傷はないものの、無数の細かな傷が浮き出ていた。それを見て、彼はとても痛ましい気持ちになった。
 濡れた手帛ふきんで泥を丁寧に拭ってやり、持ち合わせの薬を塗って、ひとまず彼も休んだ。これからどうするかを考えながら…。


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