F−10

 セルビア皇子が長ずるに従って、宮廷魔術師ゾハルの排斥の動きが強くなっていった。セルビアント自身が、ゾハルに対して好感を持っていないということもあったが、排斥を主張する者たちの多くは先代の王の時から長く登用されている重臣の者ということもあった。
 皇子11の春、ついにゾハルの追放が決定した。一連の戦争を増長させたとの責任を問うての追放であった。仰々しい面相をはがされたゾハルは、何のことはないただの老人であった。かつての皇帝を思わせるような、白髪だらけの憔悴しきった顔貌で、弁明することもなく連行されていった。多くの弟子たちが彼に付いて宮廷を去る中、あの一番弟子であるはずのセラスの姿はどこにもなかった。それを敢えて探す者もいなかった。
 カイザンネイルは宮廷に残った。彼女が当代きっての大魔術師と呼ばれるようになるのはそれから数十年もした後のことだ。自身のことであれ、帝国のことであれ、彼女の危機回避能力はそれだけの威力を発揮した。だが、その能力が本格的に開花したのは、この王朝が途絶の危機に瀕してからだ。
 良王を得て、順風満帆に見えたオキザリス帝国の行く末は、それからさらに3年後のセルビアント皇子の戴冠の日を境に急速に傾いていく。
 一体、こうなることを誰が予想し得ただろうか。国も、臣下も、むろん民もが彼を信じていたのだ。それがある日突然見限られることを、誰が知ることが出来ただろうか。…

 …知っていたのは当人とあの魔術師だけだろう。
 そう、知っていたのだあの魔術師は。何故なら、すべては彼が仕組んだことなのだから。

了   



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