F−1
鬱々として晴れやかでない日々が続く11月の夜。 病床で苦しむ王に、ひそりと忍び寄る影があった。その影は奇異な面を着け、厚い黒衣に身を纏って、死に神のように王の枕元に立つ。 老獪な魔術師は王の耳元に寄って巧みに囁いた。 「…王よ、潮時です。貴方の皇子に全権を譲り、安らかになりましょう。」 「…そうだな、アレに全権を譲って、安らかになろう。」 漠然とした意識のまま、王は魔術師の言葉を反復した。この答えに満足したように、仮面の男は見えない表情の下で笑んで言った。 「それでは直ちに議会の者たちを呼んで参りましょう。どうか、やすらかに。」 そう言い残して、男は暗幕の奥へと消えていった。
北方の会談で、王自らが長らく続いた紛争に幕を下ろそうと、バウルの首都に赴いたのが5月だった。 しかし会談の最中、他国からの予期せぬ侵攻に遭い、王は手傷を負い、バウルの国主の息子と甥、そして会談に立ち会った両国の部下は全滅という憂き目にあった。 これに伴い北方との一大戦争が勃発したのだが、帝都軍はまだ見ぬ敵に苦戦を強いられ、また王の負傷のこともあって指揮は揺らいでいた。 各地の盟主である五大国も参戦したが、それはさらなる混戦を招いたに過ぎなかった。 そして8月、これらの事態を収束するために擁立されたのが帝国の第一皇子ブリリアント=グラーメンであった。彼は18という若さにも関わらず、各国をよくまとめ上げ系統的な指揮をこなして崩れかけた味方の軍を立て直した。 彼の功績で戦局も安定化し、現皇帝の跡目は彼が継ぐだろうと誰もが考えていた頃だった。しかし…。
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