19−6
扉を一歩出た先が、真っ白だったことに、青年は立ちくらみを覚えた。文字通りの、日の目を見るのは…何日ぶりだろう。すっかり忘れていた。 「大丈夫か」 側で男の声がする。ずっと、扉の外で自分を見張っていた男だ。 「…ええ、大丈夫です。いきなりで目が慣れていなかった物で」 頭を振り払い、セルイは右に持つ松葉杖を握り直した。 「・・・ゆっくりでいい、我れについて参れ。」 いって、男は先達に立つ。セルイも慣れない杖に寄っかかりながら、右足を後方へ上げて、左足のみで前へと進んだ。
城内は比較的閑散としていた。人手の大多数が、今は大庭園に集まっているからなのだろう。自分が心配していたよりも、人に出会う確率は低そうだ。 「東の庭園」というからには、中央の大庭園よりは離れた場所にあるのだろう。そこは彼女なりの気の利かせ方なのだろうか、しかし安心はできない。セルイは身を低くして、男の陰に隠れるようにして先へ歩んだ。 遠くで、女性達の笑い声がした。
「こちらでお待ちください」 侍女が案内した先は、緑のかっきりと直角に刈られた垣根が囲む、青草の程良く繁るスペースだった。その中央には白い椅子二脚と丸いテーブルが置かれている。垣根はぐるりと半円ほど周囲を囲んでおり、更にそれより離れて同心円上に別の垣根がまた囲んでいる。だから、それほど閉塞感はないが、外からはこちらの様子が見られないようになっている。不思議な空間だ。 イウギはそわそわと落ち着かない気持ちで、その白い椅子に腰掛けていた。 セルイに会える、でも猫が気になる。もう、どっちの気持ちでそわそわするのか、自分には判別できない。また頭の中がぐるぐるして、煙が出そうだ。そういえば、今朝からなんだか熱っぽい。 (…泣いちゃダメだ。せっかく、セルイに会えるんだから) イウギはキョロキョロと辺りを見回した。垣根の隙間と隙間のあいだには、更に向こう側へと続く庭園が見える。人がいるのか、あっちの方は賑やかだ。 (ああ、早く来ないかな…) 今、この胸の内の不安と焦燥を、一刻も早く誰かにうち明けたい。セルイに相談したなら、一緒に猫を探してくれるかも知れない。だから… イウギは祈るように、相手の姿を探す。その願いが通じたのか、あらぬ形で捜し物が目に入った。 「あっ」 イウギは転げるように椅子から飛び降りた。垣根と垣根の間を、白い物が横切ったのだ。セルイではない・・・・・・猫だ。 「今度こそ」とばかりに、イウギはまた駆けだしていた。少し離れて待機していた侍女の制止など、もちろん聞かない。今は、猫を見失わない方が先決だ。セルイには待っていてもらおう。
そう、思っていた。
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